僕の中では緩くって。
緩いんですよ、悪い意味じゃなくて。


--まずは、やはりこの質問を。
コーヒーはお好きですか?

好きです。
父も母もコーヒーが好きで、我が家はみんなコーヒー党。
コーヒーは日々欠かせない飲みものの一つです。

一時期は鮮度の重要さに気がつき、朝起きたらほうじ茶を煎るものを使ってその日飲む分だけ生豆から焙煎して…素人なりにこだわってました。

--1作品書くにも軽く100枚は書かれるということで、今回の作品もすごくエネルギーとお時間を費やしてくださったと思うのですが…。

そうですね、時には何百枚とか。
今回3種類作ったじゃないですか。
で、3種類並べたときに、1個だけ空気が違うといけないんで。
これはこれで気に入った、これはこれで気に入った、と一つ一つ、いいの出来た!となっても、後で、3つ並べると、「あ、真ん中だけちょっと弱いな」とかあるんですよ。

「これだけちょっと墨飛び散りすぎて品がないな」、とか。

これを書いたときも、それぞれ良しとする物が出来た段階から、バランス見て、3つの空気を合わせていく調整をしました。
3つセットの作品なんで。

--撮影の際に、書を書く時に集中しすぎて体重が落ちることもある、とおっしゃっていましたよね。
これはもはや次元が違うのだと思うのですが、なにか集中するコツはあるのですか?

なんか、、やろうと思ってやってるわけじゃないんで。
だから、よーし今日は体重が落ちるほど集中して頑張るぞー!とは思ってないし、
そんな頑張ってる感覚はないんです。

--ゾーンに入っちゃう感じですか

そうそうそう。
スッとその感じに入って、パッと元に戻ったときに「あ、もうこんな時間」とか「もう5時間経っちゃってたか」みたいな。

だから、ストイックにやってるイメージを持たれがちなんですけど、僕の中では緩くって。
緩いんですよ、悪い意味じゃなくて。
なんていうのかな、本当に集中してる時って、鼻歌交じりで、肩の力も抜けてて。
ぜんぜん「おりゃー!」って感じじゃないんですよ。
そうやって無理矢理 集中を作り出しても、いや、そういう時も瞬間的にはあるのかもしれないんですが、
基本的には、全身の力が抜けてて、呼吸も浅くなってなくて。

--幼少期から特別なトレーニングを受けて書の道へ?

子どものときは、お習字を両親の元で学んでいました。書くことが好きで日常の一部でした。
お習字やるぞって思ってやったことはなく、親からもやんなさいと言われたこともなかった。
生活の一部であり、遊びの延長でしたね。

僕は、絵でも何でも墨で書いてました。

欲しいけど手に入らないものってあるじゃないですか。
例えば、ヴィンテージですごく欲しいけど、一脚200万する椅子、とか、今年のパリコレに出ていたこのブランドの服とか。
高校の時は、そういうものを描いていました。

北斎の浮世絵とか、自分が美しいと思うもの、憧れるが本物は手にできない、この気持ちの行き場がない、
それを描いて消化してました。
現物を見ながら、描くんです。
魅力的なものを自分でも模写してみて。

人に見せるとかじゃなくて、自分の中でいつもそんなことを昔からやっていました。

--背も高くて、姿勢もすごくよいですが、何か運動はしてらっしゃいますか?

この質問!僕、めちゃくちゃ聞かれるんですが、運動なにもしてないし(笑)
日本一運動してない人なんですよ、僕。
こんなにやってないのに、行く先々で聞かれるんです。

ただ、体の軸は意識してます。
姿勢も良くないと字は書けない。

でも、筋トレは大の苦手です。
書道を一生懸命やっていれば、運動なんていらない、と思うんです。極論みたいですが(笑)

例えば、ヨガやピラティスや瞑想やジム…、みたいに普段からスポーツをやられる方は、
結局、どこかしらで乱れた心身を「整えること」をしてるわけですよね。

でも僕は、書道があるから、スポーツがないんですよ、私生活の中に。
字を書く方にフォーカスしてるから、みんながやってる「整えること」をたぶん日常からやってるんですよ。
自然と整ってる。
体調が悪くてもいい字は書けないし、やってなくてもやってるように見えるのは、書道をしてるから。
だから別に運動とかしなくてもいい!と思っていましたが、40代半ばをむかえこの先生涯現役で作品を作り続ける為のトレーニングの必要性を感じています。

--他に書家として気を付けていることや人と違うだろうと思う点はありますか?

素食です!
外では、人との外食は、なんでも好きなもの食べるんですけど、
家では基本、酵素玄米、ぬか漬け、納豆、味噌汁と発酵食のみです。

家、ほかに何にも無いです。
ほんとにそれだけです。
今日も、酵素玄米と納豆とぬか漬けと味噌汁、とコーヒー。

本当に自宅ではそれだけで食生活は満たされています。運動もしていませんが身体は軽く頭は冴えています。
料理も、もともと好きだったんですけど、そこに辿り着いちゃってからはやらなくなりました。
凝ったもの作るより、ぬか漬けしてる方が良くて。
なんで、調味料もいらないし、揚げ物なんかしないし、僕のキッチン、キレイなもんですよ。

ハマってるのは、アボカドのぬか漬け!
それと酵素玄米が一番のご馳走です。

そういうこと言うと、嫌われて食事会に呼ばれなくなっちゃうといけないんですが(笑)
贅沢品な食事は年に数回特別な時に大切な仲間と共有出来れば満足ですね。

生活は普通の人よりシンプルなもんですよ。
家、ぜんぜん物無いですし、クローゼットも真っ黒だし。

友達とか来ると写メって行きますけど、ただの真っ黒じゃん、て(笑)

--お洋服、いつも真っ黒でコーディネートされてますよね。

昔は、ちょっと色もあったんですが。
「今日は筆握らないから、余所行きのこれ着よう」と思っても、なんかついてるんですよ、いつの間にか。
知らないうちに、ついてるんですよ、墨が。

それで、だんだん年と共に黒率が増えていって、すこーし白もあるかな?程度。
白着ても、行く先々で心配されます。

「あれ、今日どうしたの?」って、一日中どこへ行っても聞かれます。
色物なんて着たら、もう仮装ですよね。

--画家としての希水さんのお話も少し聞きたいです。

イラストの延長のような墨絵かな。
正統派の水墨画も中国に留学した時や、日本でも水墨画を学んでいましたが、型にとらわれない自分なりの新しい水墨画を描けたらと思っています。
基本的には、絵を描くように書を書いて、書を書くように絵を描いてるんです。

--誰かの名言?

僕の!(笑)
まぁまぁまぁ、これなんか(インスタの鶺鴒の絵を見せ)チョンチョンペッペッぺって感じで。
これを構えて、すごくキレイに描こうとすると、もう書を書くようには描けてない。
だから「徳川ぶれんど」って書くような感覚で、この鶺鴒って字を書く。
この字を書いて、同じリズムのまんま、同じ速度で、この絵を描いてます。
だから凝った絵は描けないというか、描かないんですよ。
ものの数秒で描くんです。
だけど、その数秒の背景には、書道で培った筆の使い方とか墨の使い方を反映させて描いてる。

--今後の活動予定を聞かせてください。

僕が今やってるお仕事を元気に長くやるだけです(笑)

古典に乗っ取って書道をすることや書道家という枠に捕らわれないで、
そこから派生させた…まあ、絵だったり写真だったり、
色んなことに、書から得た物を色んな形でアウトプットして行けたら面白いかなと思ってます。

もちろん書道も大事にしていきたい。
書道の素晴らしい部分というのは自分でも学びながら、継承しながら、広めながら、活動するんですけど。

--10年後って、どうなってると想像されます?

もっと自由にいれたらいいかな。
今でも十分フリーなんですが(笑)
どこにいるか分かんないとか。
「あの人しばらく見ないけど、パリに住んでるらしいよ」とか!
「インド行っちゃって帰って来ない」とか!

なんでもいいんですよね。
結局僕の仕事って、今、道具と身があればどこでも出来るじゃないですか。
パソコンとメールする環境があれば書いたものを送ることも出来る。
で、書いたものを社会の役に立てたり、作品を見てもらって人の心を元気するというのは、
国も人種も関係ない。

それが、今よりも自由にできていれば、より楽しいだろうな、と思います。
そういう意味で自由。
フラフラしていたいと思います(笑)

--見かけないなと思ったらインドにいるんですね?

笑。インドばっかですけど。「帰って来ないよ、あの人インドから」って言われたい(笑)
何年か前に南インドは周ったんですけど、僕はほんと良い意味でハマって。

--どっちかに分かれると言いますよね。

そうそう。僕はめっちゃハマりました。
コロナとか無くて、時間もお金も仕事も関係なく、どっか海外行って来ていいよって言われたら、インドに一番行きたいですね。
また行きたいです。

南インドは、治安もいいし、比較的食事にも馴染めました。
南ではナンは滅多に出てこなくて主食は米。野菜中心のカレーも、自分に合ってる。
僕インド行くまではチャイが嫌いだったんですよ。でも向こうに行ったら、なんかチャイばかり飲んでましたね。

あ、でも台湾も素食天国なんでいいかも。
菜食ご飯もいっぱいあるし、美味しい珈琲屋も出て来てる。

台北はすぐ行けるじゃないですか。
インドは、さすがに現地に詳しい人とかいないと不安だけど(笑)

--本当にもうどこにいるか分かんないですね。

まあ、そうは言っても、生まれ育った故郷は浜松なので帰っては来ますよ(笑)
それに、街中で教室も始めたんでね!
お習字に触れたい人がいれば、初心者大歓迎!!

--希水さんに書を学べるっていうのに、そんな近所のお習字教室みたいな感覚の初心者が通っていいのですか?

もちろんもちろん。
だれでもウェルカムです。

--希水さんの書道教室が他と違う点は?

うんと…あんまり言葉では言わないんですけど、さっき言ったような、
自分の呼吸とか、気とか、エネルギーが「書道をすることで整うこと」を実感させてあげたい。

だからもちろん、字が上手になるのは一番の目的なんですが、
字が上手になりたくて書道教室に通い始めて、
気が付いたら全然怒らなくなってた、とか、
前より色んなことに感謝する気持ちが増えてた、とか。

そこが書道に直結しないかも知れないですけど・・。
要するに、自分自身に向き合う時間を意図的に作るんですよ。
自分の字に向き合うことによって。

スマホを置いて、仕事を忘れて、家事を忘れて、
字を書くことだけに集中する時間を日常に作るだけで、良い方向に自分の身体に作用する。

字が上手くなりたいが為に書を始めたら、実生活が豊かになって、家庭が穏やかになって、
家族が楽しく過ごせて、ご飯を美味しく食べられる・・。
そんな素晴らしいこと無いじゃないですか。

だけどそれを言葉にして「だから字を書きなさい」だと、なんか臭いし、薄っぺらくなるので、いちいち言わないですけど、
そういうことを書道を通して実体験させてあげたいって気持ちがすごくあるんです。

--まさにこれこそ自分に必要なセラピーだ!って思う方多いと思います。

みんな、なんか散らかってるんですよ、なんかもう生活が。
散らかってるじゃないですか。
散らかってるうちに、1日が終わって、また散らかった1日が始まって、忙しく1日過ごして・・・って繰り返してるうちに、
気が付いたら1年過ぎちゃった、みたいなこと言ってる人があまりにも多過ぎるんで、周りにも。
僕なんてもうほんと、あの、緩くて。
1週間、僕の生活と交換したら、社会から怒られるんじゃないかって気がしますが(笑)